時間と重力一般相対性理論から量子重力まで
はじめに
時間の性質は、理論物理学における最も深遠かつ謎めいた問題のひとつです。一般相対性理論では、時間は時空の織物に不可分に織り込まれ、質量とエネルギーの存在によってゆがめられる、可鍛性のある次元です。これとは対照的に、量子重力理論では、時間は基本的なものではなく、より深く時間を超越した法則から生じる創発的な現象である可能性が示唆されています。この根本的な視点の転換は、何世紀にもわたる直観的・哲学的思考に挑戦するものであり、私たちの宇宙における時間の役割の再検討を促すものです。
一般相対性理論重力によって曲げられる時間
幾何学としての重力
アルベルト・アインシュタインが1915年に発表した一般相対性理論は、重力に対する私たちの理解を一変させました。重力は遠くに働く力ではなく、時空の曲率の現れとなったのです。恒星や惑星のような巨大な天体は時空の幾何学的形状を歪め、物体の運動や時間の流れそのものに影響を与えます。
重力的時間拡張
一般相対性理論の重要な予言のひとつに、重力による時間の拡張があります。ブラックホールの近くなど重力場の強い場所では、重力場の弱い場所に比べて時間の流れが遅くなります。これは、地表の原子時計と人工衛星に搭載された原子時計の時刻のずれを観測することで実験的に確認されています(例えば、GPSシステムはこの効果を考慮しなければ正確さを保てません)。
アインシュタイン場の方程式
一般相対性理論の数学的バックボーンは、アインシュタイン場の方程式(EFE)にコード化されています:
[
G_{mu_nu} + \Lambda g_{mu_nuT_{mu_nu}
]
これらの方程式は、時空の曲率((G_{mu_nu}))がエネルギーと運動量((T_{mu_nu})にどのように関連しているかを記述します。)
量子重力:時空を超えた時間
量子重力の必要性
一般相対性理論は大きなスケールでは非常によく機能しますが、量子レベルでは破綻します。特にビッグバンや ブラックホールの特異点のような極限環境では顕著です。そのため、一般相対性理論と量子力学を統合した量子重力理論が必要となります。
ループ量子重力と離散性
ループ量子重力(LQG)は代表的なアプローチのひとつです。LQGでは、時空は連続的なものではなく、空間の離散的なかたまり、つまり「量子」で構成されていると提唱しています。LQGでは、時空の構造はスピンネットワークによって記述され、時間そのものは基本方程式には存在しません。
時代を超えたホイーラー・デ・ウィット方程式
正準量子重力では、Wheeler-DeWitt方程式が中心になります:
[
\hat{H}\Psi[h_{ij}] = 0
]
シュレーディンガー方程式とは異なり、この方程式には時間パラメータがありません。この “時間を超越した “方程式は、最も基本的なレベルでは、宇宙が時間の中で進化していないことを示唆しています。
時間の出現:パラダイム・シフト
統計的現象としての時間
この関係概念では、時間は外部のパラメータではなく、熱力学的な 流れや情報の流れから生じる幻想です。この考え方では、時間の矢印は基本法則の本質的な特徴からではなく、エントロピーの成長から生じます。
エントロピーと創発重力
エリック・フェルリンデのように、エントロピー重力を主張する研究者もいますが、そこでは重力そのものが微視的自由度の統計的振る舞いから出現します。このような枠組みでは、分子運動から温度が生まれるように、空間と時間は創発的なものです。
哲学的および物理学的意味合い
古典的な直観を打ち破る
一般相対性理論と量子重力における時間の扱い方の違いは、単に技術的なものだけではありません。相対性理論は時間を幾何学的で連続的なものとして扱いますが、量子重力は時間は派生的で文脈的な概念であることを示唆しています。このことは、ニュートンやアインシュタインの直観に深く疑問を投げかけています。
ブラックホール情報のパラドックス
これらの問題が収束する最も顕著な場面のひとつが、ブラックホールの情報パラドックスです。一般相対性理論では、ブラックホールに落ちると情報が失われることになっていますが、量子力学ではそのようなことはありません。このパラドックスを解決するには、時間そのものを再考する必要があるかもしれません。もしかすると、量子重力力学から 単位性が崩れたり、時間が 非線形に現れたりするような枠組みを取り入れる必要があるかもしれません。
数学と物理学の出会い基本理論の幾何学化
F理論のような超ひも理論の進歩は、幾何学が粒子や場の振る舞いをどのように符号化するかを明らかにしています。これらのアプローチは、時間と空間が対称性とトポロジーに支配された純粋に数学的な構造に還元可能であることを示し、重力を他の基本的な力と統一することにつながります。
宇宙論的視点
ビッグバン再考
もし時間が創発的なものだとしたら、宇宙の起源はどうなるのでしょうか?ジュリアン・バーバーのような人物は、宇宙には時間の始まりはまったくないのではないかと主張しています。むしろ、時間は変化の副産物であり、ビッグバンは時間的なものではなく幾何学的な境界なのかもしれません。
現実の本質への示唆
時間は基本的なものではないかもしれないという考え方は、現実の根本的な解釈を変えるものです。ブロック宇宙理論(すべての瞬間が同時に存在する)や時間を超越した宇宙論といった概念は、もはや形而上学的な推測にとどまらず、ある種の量子重力の枠組みのもとでは、本格的な物理モデルとなります。
結論
一般相対性理論と量子重力の対比は、私たちの時間理解における深い緊張を明らかにしています。一般相対性理論では、時間は重力によってゆがめられます。一方、量子重力では、時間はまったく存在せず、高次の粗視化された視点から見たときにのみ出現します。この概念的な隔たりを埋めることは、時空の構造だけでなく、存在の流れそのものを再定義するような、物理学の新たな統合につながるかもしれません。研究が進むにつれて、時間が宇宙の基本的な特徴なのか、それとも時間を超えた深い法則から生まれた幻想に過ぎないのかの理解に近づいていくでしょう。
参考文献
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